ころころ蛙の歌
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春さきのころころ蛙、一つ鳴き二つ鳴き、ころころと後続け鳴き、ふと鳴き止み、くぐみ鳴き、また急に湧きかへり鳴く。いよいよに声合せ鳴く。近き田のころころ蛙、よく聴けば声変り鳴く。声変り一つ一つに、あなをかし、鳴けるさま見ゆ。あちら向きこちら向き、飛び飛びて、また水くぐり、うちひそみ、頬をふくらかし、鳴き鳴ける咽喉のさま見ゆ。あなをかし近田の蛙。さみどりの根芹が湿る、塗畔かまだ新らしき。雨もよい雨よぶ声の寒けども寒しともなし、寂しけどなにか笑へり。友よびてまた鳴く蛙遠田にも遥かどよもす。あなあはれ遠田の蛙、また聴けば遠く隔てて、夜の闇の瀬の音隔てて、いや離りうち霞み鳴く。また寄せて近まさり鳴く。遠つ浪辺に寄するごと、遠つ風吹き寄するごと、その声は夜空つたひて、いよいよ近く響きて、さて絶えて、また続け鳴く。近き田もまた競ひ湧く。初夜過ぎてまた後夜ふけて、なほなほにどよもす声の、おそらくは夜の明くるまで。萠黄月、月の円暈、遠近の薄き飛び雲、濡れ濡れてちらめく星の糠星のかげ白むまで。ころころとまたころころと、夜もすがら、夜をただ一夜、春さきのをさな蛙が、声かぎり、また声かぎりここだく鳴くも。
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