眼ふたげば

北原白秋

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眼ふたげば鳥は囀る。 盲ひたる色赤き世界のなかに、 疲れたる鳥は囀る。 盲ひたる色赤き世界のなかに、 また見るは肋のにほひ 光なく、力なく、さあれほのめく。 肋骨泣きかつ訴ふ。 『わが骨はわが骨は色あかき心の楯よ。 かくてはや終の墓碑。』 鳥は囀る。 『婆羅門の婆羅門の塩を嘗めつる 咎ゆゑに昼も夜もかくは啼くめる。』 いづこにか、さはきりぎりす。 盲ひたる色赤き世界のなかに、 力なきうめきのやから 騒ぎ立ち、鳥はさへづる。 はた消えてふと見ゆる顔。 その顔はあてに痩せたるかの少女。 少女のなげく。 『あはれ、君、われはもや倦みも死なまし。』 鳥は囀る。 少女の顔はややありて白き手となり、 疲れたる、葡萄酒を注ぐ顫して 『紅き酒、そはわが血潮、 ほどほどに吸ひて去ねかし。』 鳥は囀る。 はと眼ひらけば、わがまへに赤くちりかふ 光線の光の団のめくるめき。 鳥は囀る。 また眼とづれば、泣きいづる骨の揺曳、 人の顔。はた、きりぎりす。 鳥は囀る。

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