恋慕ながし

北原白秋

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春ゆく市のゆふぐれ、 角なる地下室の玻璃透き うつらふ色とにほひと 見惚れぬ。――潤るむ笛の音。 しばしは雲の縹と、 灯うつる路の濡色、 また行く素足しらしら、―― あかりぬ、笛の音色も。 古き醋甕と街衢の 物焼く薫いつしか 薄らひ饐ゆれ。――澄みゆく 紅き音色の揺曳 このとき、玻璃も真黒に 四輪車軋るはためき、 獣の温き肌の香 過ぎりぬ。――濁る夜の色。 ああ眼にまどふ音色の はやも見わかぬかなしさ。 れんほ、れれつれ、消えぬる 恋慕ながしの一曲。 四十年二月

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