下枝のゆらぎ

北原白秋

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日はさしぬ、白楊の梢に赤く、 さはあれど、暮れ惑ふ下枝のゆらぎ…… 水の面のやはらかきにほひの嘆 波もなき病ましさに、瀞みうつれる 晩春の窻閉す片側街よ、 暮れなやむ靄の内皷をうてる。 いづこにか、もの甘き蜂の巣のこゑ。 幼子のむれはまた吹笛鳴らし、 白楊の岸にそひ曇り黄ばめる 教会の硝子窻ながめてくだる。 日はのこる両側の梢にあかく、 さはあれど、暮れ惑ふ下枝のゆらぎ…… またあれば、公園の長椅子にもたれ、 かなたには恋慕びと苦悩に抱く。 そのかげをのどやかに嬰児匍ひいで 鵞の鳥を捕らむとて岸ゆ落ちぬる。 水面なるひと騒擾、さあれ、このとき、 驀然に急ぎくる一列の郵便馬車よ、 薄闇ににほひゆく赤き曇の 快さ、人はただ街をばながむ。 灯点る、さあれなほ梢はにほひ、 全くいま暮れはてし下枝のゆらぎ…… 四十一年八月

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