耽溺

北原白秋

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あな悲し、紅き帆きたる。 聴けよ、今、紅き帆きたる。 白日の光の水脈に、 わが恋の器楽の海に。 あはれ、聴け、光は噎び、 海顫ひ、清掻焦がれ 眩暈めく悲愁の極、 苦悶そふ歓楽のせて キユラソオの紅き帆ひびく。 弾けよ、弾け、毒のヸオロン 吹けよ、また媚薬の嵐。 あはれ歌、あはれ幻、 その海に紅き帆光る。 海の歌きこゆ、このとき、 『噫、かなし、炎よ、慾よ、 接吻よ。』 聴けよ、また苦き愛着、 肉のおびえと恐怖、 『死ねよ、死ね』、紅き帆響く、 『恋よ、汝よ。』 弾けよ、弾け、毒のヸオロン 吹けよ、また媚薬の嵐。 一瞬よ、――光よ、水脈よ、 楽の音よ――酒のキユラソオ、 接吻の非命の快楽、 毒水の火のわななきよ。 狂へ、狂へ、破滅の渚、 聴くははや楽の大極、 狂乱の日の光吸ふ 紅き帆の終のはためき。 死なむ、死なむ、二人は死なむ。 紅き帆きゆる。 紅き帆きゆる。 四十年十二月

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