幼時回想

北村初雄

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小さい掌にのつた の古郵便切手が一枚。 初雄は今更 と交換した 支那の切手五枚が惜しい樣に思はれて來た。 切手の上に畫かれた 將軍 がじつと想ひに耽りながら人を見る面持。 肩越に樹の濃い影をその上へ 運 ばせて西班牙の金貨を投げとばす眞晝下りの光線、 風に羽をかすめる山雀 の聲 じん 夫篤牡丹の大きな葉が左右に搖り分けられると白色い花瓣のと桃色の花 瓣のとが相互に首を伸ばし合つて、 その間に交錯する相 一つの笑ひ。 上 げられる の袖口の白い綾 地境の五月花の樹の垣根の下の土を啄く柔 らかい靴の足音。 「姉さんが、 君も來給へつて」と云ふ聲に、 初雄が急いで隱 袋に切手を扭込んでする小さい願での合圖。 誰かしらがする小ぼけな栗色 の欠呻。 何處までも暖たかいこの日和。 下僕が一人現はれて、 又、 池の周 緣の苔蒸した海神の像の蔭へと隠れる。 其處から起る輕い呟 御辭儀する紫色の帽子。 それが初雄の肉付の善い頬へと滑つて行く芝生 の上の影。 大余の上で堅琴と錫との象をした二つの白雲の據れちがひ。 Lynne が褐色の包裝紙を解くと、 現れたのは奇麗な書物。 それは Snow-Drop やが縺れ合ふ矢車草の花よりひよわい のお伽噺 東 や 屋まで匂つて來る何か樹の華の香ひ。 凛と響くLの發音 がぴちやぴ ちやと叩く膝の上の Lynne の白い左の手。 一丁、 書籍から離れて睨む眞似を する睫毛の多いその眼。 初雄はあどけない口を半ば開かせて無心げに其を 見上げる。 山茶花の花瓣がちる。 蜂〓 一つの小話の終り。 「さあ、 今度は貴君達の番ですよ」。 挿繪の妖婆の曲つ た鼻の先を中指で、 こずき廻す Lynne の微笑む顏。 風に搖られながら東屋 の樋と四手の樹の枝との間に巢を張る黃いろい卿蛛。 立ち上がつて、 背伸 びする飼犬。 は姉の膝の上で初雄の手を確かと握る。 こうして二人 に合唱される「木鼠の歌」。 やがて池の方から來る の伯父さんの荒い足 飛上がる二人。 その胴腰へと飛び付く二人。 太い伯父樣の哄笑ひが、 二人の上を被ふて際涯なく擴がつて行く。 書籍を閉ぢる「ぼうん!」と云ふ音。

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