平家蟹

北村透谷

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友人隅谷某、西に遊びて平家蟹一個を余が爲に得來りたれば、賦して與ふるとて 神々に、 みすてられつゝ海そこに、   深く沈みし是非なさよ。 世の態は、 小車のめぐりめぐりて、   うつりかはりの跡留めぬに、 われのみは、 いつの世までもこのすがた、   つきぬ恨みをのこすらむ。 かくれ家を、 しほ路の底に求めても、   心やすめむ折はなく。 しらはたの、 源氏にあらぬあまびとの、   何を惡しと追ひ來らむ。 まどかなる、 月は波上を照せども、   この水底は常世暗。 あはれやな、 かしらの角はとがりまさり、   前額のしわはいやふかし。 ふたもとの、 はさみはあれどこの恨み、   斷ちきる術はなかりけり。 夢なりし、 むかしの榮華は覺めたれど、   いまの現實はいつ覺めむ。

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