孤飛蝶

北村透谷

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 つれなき蝶のわびしげなる。いつしか夏も夕影の、葉風すゞしき庭面にかろく、浮きたるそのすがた。黒地に斑しろかねの、雙葉を風にうちまかせ花ある方をたづね顏。  春の野に迷ひ出でたはつい昨日、旭日にうつる菜の花に、うかるゝともなく迷ふともなく、廣野を狹まく今日までは。思へば今日までは怪しく過ぎにけり。いつのまに春は過ぎつゝ夏も亦た、あしたの宿をいかにせむ。  とは見る人の杞憂にて、蝴蝶はひたすら花を尋ね舞ふ。西へ行くかと見れば東へかへり、東へ飛んでは西へ舞ひもどる。うしろの庭をあさりめぐりて前なる池を一とまはり。秋待顏の萩の上葉にいこひもやらず、けさのあはれのあさがほにふたゝび三たび羽をうちて再た飛び去りて宇宙に舞ふ。  たれか宇宙に迷はぬものやあらむ。あしたの雨夕べの風何れ心をなやめぬものやあるべき。わびしく舞へるゆふべの蝶よひとりなるはいましのみかは。われもさびしくこの夏の、たそがれの景色に惑ふてあるものを。  秋風の樹葉をからさんはあすのこと。野も里もなべてに霜の置き布けば草のいのちも消えつきて、いましが宿もなかるべし。花をあさるは今のまの、あはれ浮世の夢なりけり。黄金積むもの、權威あるもの、たゞしは玉のかんばせの佳人とても、この夢に、もるゝはあらじ、あなおろかや。

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