眠れる蝶

北村透谷

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けさ立ちそめし秋風に、   「自然」のいろはかはりけり。 高梢に蝉の聲細く、 茂草に蟲の歌悲し。 林には、   鵯のこゑさへうらがれて、 野面には、   千草の花もうれひあり。 あはれ、あはれ、蝶一羽、   破れし花に眠れるよ。 早やも來ぬ、早やも來ぬ秋、   萬物秋となりにけり。 蟻はおどろきて穴索め、 蛇はうなづきて洞に入る。 田つくりは、   あしたの星に稻を刈り、 山樵は、   月に嘯むきて冬に備ふ。 蝶よ、いましのみ、蝶よ、   破れし花に眠るはいかに。 破れし花も宿假れば、   運命のそなへし床なるを。 春のはじめに迷ひ出で、 秋の今日まで醉ひ醉ひて、 あしたには、   千よろづの花の露に厭き、 ゆふべには、   夢なき夢の數を經ぬ。 只だ此のまゝに『寂』として、   花もろともに滅えばやな。

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