髑髏舞

北村透谷

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某日、地學教會に於て見し幻燈によりて想を構ふ。 うたゝねのかりのふしどにうまひして   としつき經ぬる暗の中。 枕邊に立ちける石の重さをも   物の數とも思はじな。 月なきもまた花なきも何かあらん、   この墓中の安らかさ。 たもとには落つるしづくを拂ねば、   この身も溶くるしづくなり。 朽つる身ぞこのまゝにこそあるべけれ、   ちなみきれたる浮世の塵。」 めづらしや今宵は松の琴きこゆ、     遠の水音も面白し。 深々と更けわたりたる眞夜中に、     鴉の鳴くはいぶかしや。 何にもあれわが故郷の光景を     訪はゞいかにと心うごく。 ほられたる穴の淺きは幸なれや。     墓にすゑたる石輕み。 いでや見むいかにかはれる世の態を、     小笹蹈分け歩みてむ。 世の中は秋の紅葉か花の春、     いづれを問はぬ夢のうち。」 暗なれや暗なれや實に春秋も     あやめもわかぬ暗の世かな。 月もなく星も名殘の空の間に、     雲のうごくもめづらしや。 天を衝く立樹にすがるつたかつら、     うらみあり氣に垂れさがり。 繁り生ふ蓬はかたみにからみあひ、     毒のをろちを住ますらめ。 思ひ出るこゝぞむかしの藪なりし、     いとまもつげでこのわが身、 あへなくも落つる樹の葉の連となり     死出の旅路にいそぎける。」 すさまじや雲を蹴て飛ぶいなづまの     空に鬼神やつどふらむ。 寄せ來るひゞき怖ろし鳴雷の     何を怒りて騷ぐらむ。 鳴雷は髑髏厭ふて哮るかや、     どくろとてあざけり玉ひそよ。 昔はと語るもをしきことながら、     今の髑髏もひとたびは、 百千の男なやませし今小町とは     うたはれし身の果ぞとよ。 忘らるゝ身よりも忘るゝ人心、     きのふの友はあらずかや。」 人あらば近う寄れかし來れかし、     むかしを忍ぶ人あらば。 天地に盈つてふ精も近よれよ、     見せむひとさし舞ふて見せむ。 舞ふよ髑髏めづらしや髑髏の舞、     忘れはすまじ花小町。 高く跳ね輕く躍れば面影の、     霓裳羽衣を舞ひをさめ。 かれし咽うるほはさんと溪の面、     うつるすがたのあさましや。 はら/\と落つるは葉末の露ならで、     花の髑髏のひとしづく。」 うらめしや見る人なきもことはりぞ、     昨日にかはれる今日の舞。 纏頭の山を成しける夢の跡、     覺めて恥かし露の前。 この身のみ秋にはあらぬ野の末の     いづれの花か散らざらむ。 うたてやなうきたる節の呉竹に、     迷はせし世はわが迷ひ。 忘らるゝ身も何か恨みむ悟りては、     雲の行來に氣もいそぐ。 暫し待てやよ秋風よ肉なき身ぞ、     月の出ぬ間にいざ歸らむ。

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