宗教風の恋

宮沢賢治

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がさがさした稲もやさしい油緑に熟し 西ならあんな暗い立派な霧でいつぱい 草穂はいちめん風で波立つてゐるのに 可哀さうなおまへの弱いあたまは くらくらするまで青く乱れ いまに太田武か誰かのやうに 眼のふちもぐちやぐちやになつてしまふ ほんたうにそんな偏つて尖つた心の動きかたのくせ なぜこんなにすきとほつてきれいな気層のなかから 燃えて暗いなやましいものをつかまへるか 信仰でしか得られないものを なぜ人間の中でしつかり捕へようとするか 風はどうどう空で鳴つてるし 東京の避難者たちは半分脳膜炎になつて いまでもまいにち遁げて来るのに どうしておまへはそんな医される筈のないかなしみを わざとあかるいそらからとるか いまはもうさうしてゐるときでない けれども悪いとかいゝとか云ふのではない あんまりおまへがひどからうとおもふので みかねてわたしはいつてゐるのだ さあなみだをふいてきちんとたて もうそんな宗教風の恋をしてはいけない そこはちやうど両方の空間が二重になつてゐるとこで おれたちのやうな初心のものに 居られる場処では決してない (一九二三、九、一六)

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