ちつぽけな象がやつて來た

三好達治

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颱風が來て水が出た 日本東京に秋が來て ちつぽけな象がやつて來た 誕生二年六ヶ月 百貫でぶだが赤んぼだ 象は可愛い動物だ 赤ん坊ならなほさらだ 貨車の臥藁にねそべつて お薩やバナナをたべながら 晝寢をしながらやつて來た ちつぽけな象がやつて來た 牙のないのは牝だから 即ちエレファス・マキシムス* もちろんそれや象だから 鼻で握手もするだらう バンコックから神戸まで 八重の潮路のつれづれに 無邪氣な鼻をゆりながら なにを夢みて來ただらう ちつぽけな象がやつて來た ちつぽけな象がやつて來た いただきものといふからは 輕いつづらもよけれども それかあらぬか身にしみる 日本東京秋の風 ちつぽけな象がやつて來た * アジア象とて、この種のものには牝に牙がない。去る年泰國商賈某氏上野動物園に贈り來るもの即ちこれなり。因にいふ、そのバンコックを發するや日日新聞紙上に報道あり、その都門に入るや銀座街頭に行進して滿都の歡呼を浴ぶ。今の同園の「花子さん」即ちこれなり。

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