昼
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別離の心は反つて不思議に恋の逢瀬に似て、あわただしくほのかに苦がい。行くものはいそいそとして仮そめの勇気を整へ、とどまる者はせんなく煙草を燻ゆらせる束の間に、ふと何かその身の愚かさを知る。
彼女を乗せた乗合馬車が、風景の遠くの方へ一直線に、彼女と彼女の小さな手携げ行李と、二つの風呂敷包みとを伴れてゆく。それの浅葱のカーテンにさらさらと木洩れ日が流れて滑り、その中を蹄鉄がかはるがはる鮎のやうに光る。ふつと、まるでみんなが、馭者も馬も、たよりない鳥のやうな運命に思はれる。さやうなら、さやうなら、彼女の部屋の水色の窓は、静かに残されて開いてゐる。
河原に沿うて、並木のある畑の中の街道を、馬車はもう遠く山襞に隠れてしまつた。そして、それはもうすぐ、あのここからは見えない白い橋を、その橋板を朗らかに轟かせて、風の中を渡つて走るだらう。すべてが青く澄み渡つた正午だ。そして、私の前を白い矮鶏の一列が石垣にそつて歩いてゐる。ああ時間がこんなにはつきりと見える! 私は侘しくて、紅い林檎を買つた。
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