赭土山

三好達治

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私は今日 裏山の小徑を歩いた 何といふ目あてもなしに 赭土山を歩き𢌞つた 歩き𢌞つた 松の林を 池のほとりを 人影もない寺の庭を 私の影は 愚かな驢馬のやうに見えた 私は少し愕いた 人生の 感情の 噫 何といふ季節であらう 淋しい臥床の中で聽く耳鳴りのやうに 蝉はどこでも啼いてゐた 蝉はしんしんと鳴いてゐた 私はしばらく草の上に坐つてゐた そこからは海が見えた 煙の流れる海のむかふに 名も知れぬ島が見えた 山が見えた ああその一つの古い思出 古い一つの思出の方へ この炎天の草の上から 山峽から 今日もなほ 羽ばたくものは何だらう 愚かなことだ つまらぬことだ―― 愚かなつまらぬ驢馬の影だ それは この草の上の私の影は 蝉はしんしんと啼いてゐた 松の林に 蝉は啼いてゐた

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