乳をもらひに

室生犀星

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母おやに乳がないゆゑ 八幡さまの裏まで まいにち貰ひ乳をしにゆく その路は青い垣根がつづいて 人のうちの庭が見える坂になつてゐる そこには卯の花が白い 朝と晩と、その坂みちに 乳をもらひにゆく私は雨にぬれ 白い瓶をかかへてかへる 坂は片側町で 地笹が雨で蒼蒼しい 母おやに乳がないゆゑ こどもが泣いてしかたがない かんしやくが起つても 默つて私はがまんをしてゐる ぎあ、ああお、ぎや、ああお 乳の時間になると 私は雨のなかを出てゆく ぎあ、ああお、ぎや、ぎややああお、 朝と晩と 母おやが急がすゆゑ 坂みちの卯の花腐す雨のなかを がらすの瓶をさげて歩いてゆく私、 けさも乳があつてくれればいいと そればかり考へては坂を下りてゆく 坂は片側、八幡さまの森になつてゐる

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