土手

室生犀星

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田端の奧にガードがある そこのふた側になつてゐる土手が このごろ眞青になつて深い草むらをつくつた あさはきつと歩きにゆく 仕事にくたびれた午後も 晩食の濟んだあとでも歩く ふしぎに晩は向つ側の土手が、 くらみをもつてどつしりと臥てゐる こちらの土手も長く暗く 深い谷間を想像させる 向う側の人家の屋根、 屋根をかこむ樹、 樹にちらつく美しい星、 そして緑から吹き出たやうな そよそよした爽やかな風がからだをなでる ときどき隙間には山の手の電車が通る あかるい窓、 ちらつく白いきもの、 女の乘客のふくれた膝、 シグナルが一つ、青く震へてゐる どんなに疲れたときでも この土手にくるとさつぱりする 誰も晩はあるかない 風ばかりが囁やく――。

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