道路(『星より来れる者』収録・同題第3篇)
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忘れることのできないのは
汚ない姿で
濕つた淺草の道路をじくじく歩いたことである
何の用事だか さもしい心で
屋根越しにななめに夕日を眺めて通つたことが今だに忘れられない
あの日の道路と家並と
記憶にすらない人の顏かたちさへ、今になると浮んでくる
屋根の上の廣告、せまい西洋料理店
汚ない犬や溝の工事など
よごれた繩のやうにずるずると思ひ出される
わたしは乏しい金で何を食べたか
何を見たかすら覺えない
ただどす黒い勞働者と卓をかこんで
何かをがりがりと食べてゐた
沈んだ氣持で まづさうに其處を出て
やはり濕つた道路をあるいてゐた
いつまでもさうしてゐるうち
わたしは脚氣のやうに勞れて ぬかるみを歩いては停り
停つては歩きながら
さもしい鴉のやうに黒ずんだ影をおとしてゐた
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