富士山

室生犀星

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雪晴れの美しい太陽が出て來た。 雪の日の空の青みの濃いこと。 そして温いこと。 ガードの土手の方へあるくと 白い富士山が見える 人家の屋根と疎林の間に。 疎林のしたはレール道になつてゐて 山の手線の電車が 二つばかり過ぎ去つたあとだ おれは富士を眺める 富士山はまるで子供らしい好奇の目を瞬かしてくる おれはお前の下をよく通つた 煤でよごれたきたない汽車の窓から 初めてお前をみたのは今から十三年前だ。 おれは凍えた手で 窓ぎはをがりがりと掴んでゐた おれはどうにもならなくて國へかへりつつあつたのだ 寒さと飢とに逐はれて冷たい窓ぎはで がりがりと硝子戸をこすつてゐた。 なるほどお前は美しい姿をもつてゐる お前の平和はなかなか讀みつくせない。 だがおれはいまなら お前の姿をゆつくり眺められる おれの生活がこの東京に落ちついたから。

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