室生犀星

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或る婚筵の席で にはかにあたりが騷がしくなつた 三階の西洋料理店で 窓下は京橋の大通りになつてゐた 誰かが死人が來てゐる すぐ階段の上にゐると囁いたものがゐた 階段の上に せいの高い脊廣の男が立つてゐた みんなは驚いてその方をながめた その男はたばこを咥へ 陰氣なうすぐらい顏いろをしてゐた たしかに死んだ男だと みんなの耳から耳へ その聲がささやいた その男のうしろに大きな鉢の緑葉があり それが煙るやうに見えた その男はみんなと話をしなかつた みんなは知り合ひだのに變だと なかにはもう震へてゐるものさへゐた 會場のつぎに花嫁の支度部屋があつて ドアに鍵がかかつてゐた 誰かが這入らうとすると開かなかつた はんたいの窓越しにその室を覗きこむと 花嫁はぼんやり坐つたきりになつてゐた みんなそばへよると 花嫁ははじめて氣がついた が何もいはなかつた ただ顏いろがわるかつた れいの男は筵席の最後のコオヒイまでのんで ゆつくりかへつて行つた が、ふしぎなことには 料理店の勘定書は九人前しかなかつた あの男をいれると十人前だつたのだ が、どうしても九人前しか出さなかつたと 主人が言つてゐた その男はそれきり來ない さう嫁の方のものが言つてゐた

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