室生犀星

タグを編集・提案

作品の主題・モチーフなど、対象に固有の情報を登録してください。年代・形式・表記・文学運動などの共通分類は登録できません。会員タグの追加と、正式タグの削除は、5人の支持で自動反映されます。

ログインするとタグの追加・削除を提案できます。

わたしは街道の淫賣屋に坐つてゐた 冬で寒さが荒く 茶碗ががちがち氷つてゐた 女の肌は荒繩のやうに粗かつた それを毎夜靴や下駄で踏みつけるやうな客が 門の前にひしめいてゐた 女はその肌を絹や黄金でつくり上げ 高價なシヨオルを頸すぢに卷きつけてゐた 自分のからだの荒廢なぞ問題ではなかつた かの女はすきな食物と贅澤で 一切をごまかしてゐた 反對に肉體は勞れる一方で 蜂の巣のやうに穴だらけになつてゐたが それをていねいに金や絹で埋めてゐた わたしはさういふ街區に 晩も晝も坐つて あさましく餓鬼のやうに震へてゐた その肌の金を拔いたりはめたりしながら それと同じい荒んだ氣持で 永い間坐つてゐた 女はさういふうちにどんどん變化つた さきの女は何處へか行つて つぎに出た女が間もなく からだを傷だらけにした さきの女と同じいやうになつてゐた 繰り返されるうち 私はそれらの女をいちいち其處の柱に 名前を彫りつけておいた 十七人目に冬は完全に終つた 春になると もう柱は傷だらけになつて 私はもう名前を彫りつけるのが物憂かつた ただその名前だけを見に行つた 柱は古びて蜘蛛の巣と煙草のけむりに煤ばみ 私の爪あとも消えがちになつてゐた 私はそれを見あげながら居たが 女は誰も氣がつかなかつた 誰一人としてそれを訊ねるものがゐなかつた 私は一人の友だちをつれて行つて その街區の家の柱を見せた 友だちはあきれ返つて數多い女の名前をながめた が、そのうちの一人として彼の知つた女も居なかつたので 興もなささうにしてゐた 最後に私はかれを恐ろしい注射室へ案内してみせた そこにあらゆる藥品があり うす青いガラス瓶の堆積を棚の上にながめさせた 藥品が肉體の崩落を停めるもの 注射によつてのみ生きる種族を證據立てるもの その他一切の忌はしい惡魔的藥品の裝置がかれを吃驚させた 友だちはかへるとき ドアの把手をとることさへ怖れた 私は微笑つてかれを賑やかな街區へ送つて出た。

ログインすると、この作品に自分だけに見えるメモを残せます。

批評・感想 0

作品の表現や構成を検討し、根拠を示しながら評価・講評する場所です。

まだ批評・講評はありません。

巣の談話

疑問や連想、ちょっとした読み方などを気軽に話せます。

まだ投稿はありません。

話題を投稿する

巣に寄せられた作品

詩から生まれた翻案・イラストや、朗読・解説などの関連リンクを持ち寄れます。

まだ投稿はありません。

この詩に作品を寄せる