暮春の庭

永井荷風

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晴れわたりぬ春の空 遠く聞ゆる花火の響人の声。 車の音もまじりたり。 けふは祭の日なりけり。 門とぢて外にな出でそ。 町にな行きそ。 町には酔どれ押合ひ 車に人の争ふ日なり。 家にゐよ。庭を歩まむ。 若芽の垣にかこはれて 庭はしづかに苔ふかし。 春の名残の花は散り 椎の落葉はつもりたり。 散る花もろとも常磐木の 落葉をかけば時ならぬ 秋の夕のさびしさに 色なき月は空にあり。 ものうき鐘はおのづから 惜春の賦を奏るを。 われ一人きくそのしらべ われ一人立つ庭のすみ。 さびしき思は落葉に似たり。 掃くとても掃くとても 積りつもりて限り知れねば。

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