堀割の散歩
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汐の満干に大川の
水は休まずながるゝを。
町の中なる堀割の
水は濁りて橋のした。
岸によどみて滞り
浮ぶ芥ともろともに
むされて腐れ
腐れてこゝに沈み行く。
腐れて沈む水の色。
絵師も知らじ。
蒸さるゝ水より湧く匂。
薬師も知らじ。
腐りて沈む水の色
よろこび見るは何人ぞ。
蒸されて放つ芥の香を
おそれず嗅ぐは何人ぞ。
沈滞は腐敗のみなもと
腐敗は悪臭の泉なり。
一代の栄華極りて腐れ
腐れて革命の嵐は来る。
はかなき人の世の行末や
よろこびも悲しみも
一たび倦怠の瀬によどめば
腐りて沈む虚無の淵。
声なき声はこゝより起りて
世をのろひ
匂なき匂はこゝより発して
人を病ましむ。
われは生れて町に住む
よどみし時代の児なりけり。
朝な夕なに堀割の
岸に杖ひく身なりけり。
冬ざれし溝川の汚きながめは
わが思出の世なりけり。
芥の重さに芥船の動きかねたる悩みこそ
悔にもだゆるわが身ならずや。
わがうたふ歌をな聞きそ。をとめ子よ。
わが手かなづる琴をな聞きそ。ますらをよ。
わが歌きくは橋の下
芥をしとねの乞食あり。
わが琴きくは辻君の
過行く人を待つ間なるべし。
わが歌きゝそ乙女子よ。
わが琴きゝそますらをよ。
われは生れて町に住み
濁りし水のくされ行く
岸に杖ひく身にぞありける。
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