永井荷風

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きのふの風けふの雨 河岸の柳は散つてゐる。 燕の群よ旅の支度はもうよいか。 冬の来ぬ中お前達は南へ行く。 時候はかはる世はかはる。 思ひかへせば桐の花 揚場のかしに匂ふころ わが家の倉の軒下に 来て巣をつくる仮の宿 雛を育てゝもろともに 南をさしてかへり行く。 時候はかはる世はかはる。 燕よ支度はもうよいか。 河岸の柳は散つてゐる。 見ずや浮世の風のはげしさを。 お前達の行つたあと わたしは店をしめるだらう。 あらしは烈しくなるばかり。 先祖のたてた老舗も倉も 今年の風にはたまるまい。 燕の群よお前達は南へ行く。 わたし達はどこへ行く。 時候はかはる世はかはる。 燕の群よまた来る春に お前達のまた来る時 今年の古巣はもうあるまい。 店は閉ざされ倉は倒れてゐるだらう。 さらばつばめよ。 さらば古巣よ。 さらばわが家わが老舗。 時候はかはる世はかはる。 河岸の柳は散つてゐる。

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