夜汽車が走つてゐる

中野秀人

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お前は、 枯穗を飾る雛罌粟のやうに赤くなる お前は、 綠のシャツポを縫つて地球の上に落とす お前は、 白い馬のやうに俺の天蓋の上を駈けてゆく お前は、 切り取られた首に婚禮の座を投げる お前は、 お前のふり撒く聖水のなかで、 土の模像となつて崩れる お前は、 かつて、 地平から落ちた、 月のなかから、 登つて來る お前は、 無限に登つて來る 風に震へて、 動搖する、 波のなかから登つて來る 死んでも、 死んでも、 死にきれない死骸のなかから登つて來る 枝をつたつて、 木の葉の群のなかから、 登つて來る 絕望の緊張の、 截裂く瞬間の、 遠い響の、 鼓動のなかから登つて來る お前がくるりと描いた、 お前の大きなコンパスの下に、 世界が眠つてゐる 俺は、 俺の死骸を擔いで、 錆ついた門の前に立つてゐる 地球が、 逆に廻轉してゐる それは小さいものよりも 小さくなる お前は、 俺の胸に、 トンネルを開ける、 お前の眞黑い荷車がとまる お前は、 前から後から、 迫つて來る鐵壁の上で、 赤い旗を振る お前は、 雨のなかの花火だ、 思ひでの死骸を地球の重心から引つぱる お前の鐵の鎖は、 お前の足首を喰ふ お前は、 初めから終りへつなぐ鐵鎖を解く 解いても、 解いても、 鐵の輪が鐵の輪に接吻しにやつて來る、 お前の足首を喰ふ お前は逆さまに吊される お前の死は、 お前に死の門を閉ざし、 お前のシグナルは、 お前を締める鐵の齒車となる お前と、 俺と、 過去と、 未來と、 それは行きちがふ二つの列車であつた。 最後の無限のなか に、 俺とお前と、 お前と俺とが、 二人づゝ別々に乘つてゐた。 そして、 記憶よりも遠い記 憶のなかで、 俺達は四つの壁であつた。 それは牢獄であつた。 牢獄は、 俺の胸に、 トンネ ルを開けて、 そこで停止した。 お前は、 俺に會ひに來た。 俺は、 お前に會ひに行つた。 永 遠のさよならを言ふために、 お前と俺とが四人になつて、 四つの壁の四隅から眞中に出て 行つた。 孤獨のない、 眞空のなかで、 お前と俺とが、 木靈となつて呼び合つた。 俺達は擴 がつて、 そしてまた擴がつて、 空の盆地が俺の胸のなかに嵌まり込んできて、 嵌まり込ん だもののなかに俺が嵌まり込んでいつて、 俺がお前の速力に乘つて、 俺の胸のなかを飛び 拔けていつた。 俺は、 伸びあがり、 手を差しのべ 雲の裾を捉へて空の薄明を引開ける 遠い見えないところで お前の夜汽車が お前の停車場にはひつてゆく

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