伊都滿譚詩
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糸滿は琉球南方の一海村なり。その民は勇敢にして甚だ海洋を愛し好んで扁舟をもて遠洋に泛ぶと也。われ故郷に歸りて南海の濱に居し、一夕、怒濤を聽きて興趣を覺ゆ。ふとリヒヤルト・デエメルに「海の鐘」の歌ありしを思ひ出で筆とりて試みにこの譚詩をつくる。
なんぢ童たち
朝夕の目ざめに
潮騷の音を
海とや思ふらん。
わたつ海の底に
深く鳴りいづる
世にもいみじかる
鐘のひびきは、
漕ぎ出でて水の
心臟に觸るる時
選ばれし舟子ぞ
命を賭けて聞く。
波ぞ美しき。波ぞ
勇ましき。波ぞ
怖ろしき。怖ろしき
美しき、可愛しき。
怖ろしき時いとど
可愛しや、波。命。
我は勇魚となりぬ
波のまにまに。
友や、七人
この日波に呑まれつ、
勇魚なる我が眞上に
星一つ見えきて、
雲裂けて、月はだら
聞け、鳴り出でぬ、鐘
海の鐘、生きて我
美しき身ぶるひす。
言ひよりて囁く
海の胸の鐘ぞも。
まごころを明しぬ
底なき底より。
七人の友に
われは勝ちつつ
海はこの日より
われに身を任せつ。
「海の夫、颶風の
友、人の勇魚」
かく呼ばれてわが
髮は白くなりつ。
常若の海は
白き髮を好まず、
わが骸は今ぞ
陸の妻にまかす。
我ぞ聞きし。むかし。
海の底ふかく
鳴り出でて響く
いみじかるかの鐘の響。
よしや高鳴りて
胸をとどろかすとも、
知れ、潮騷はただ
たはれ女のたはれ唄。
子ら、友に勝て
風に勝て、海を娶れ、
深なさけいみじき
海をその鐘に聞け。
覆りたる刳舟は
汝が腕に抱け。
二つなき海の鐘は
命かけて聞け。
わが教こそは、好き
童たちにのこす、
骸は、徒らに
陸の妻にまかす。
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