オルゴオルにそへて弟に與ふ

佐藤春夫

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恥多き物語書き得て得たる金いくらか。 病癒えそむる汝が枕べに置かばやと オルゴオルを買ひ來て、春の夜ふけに まづみづから試みなぐさむなり…… これはこれ詩人が心の臟なれば、 うた湧き出づる箱のよろしさよ、 聞きつつをれば春の夜はそぞろに こころはをさな子のごとく物好きになり ふと、その箱のおもてに手をふるれば 思ひきや、これはこれ夢かとふるき思ひ出の 少女子がときめく心の臟をひそめをさめて わが手にひびくをののきのかそけさよ あやしさよ、いみじさよ、いとしさよ、 げに歌湧きいづるこの箱のよろしさよ。 な言ひそ、弟よ、汝がいのちいま衰へて 人の世の喜びに置く枕べの小さなる箱一つと。 知れよ、汝が兄は命壯んなる日にもなほ且つ、 人の世の喜びはただ小さなるわが心の箱一つぞと。

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