匂ひと響き

佐藤惣之助

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藪とすももの花のあらしのなかから いひ知れぬうすい感じと影がとびちり 曇つてゐる村村と僕をあをあをと塗りつけ ごくひそやかな響きをつたへては見えなくなる 僕はそのうしろと前と色のよい空間へ 自分の持つてゐる曇りも闇をもとばしてしまひ 眞晝のうすい月の色香をかんじ 雜木のむれを吹き透す生氣にふれ 何のあてもなくほんのりと自分を失くしてしまふ 僕はその色とも水ともつかない薫りを愛し このうつくしい響きのなかから 生の幽麗なる姿に似たものをかんじはじめる おぼろげなるそこら中の色と形とに ふしぎな情愛の日のふくらみをふらせ 無名の生氣の大きい蒸氣に いつともなく沈みながら。 (武州折本村にて)

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