四月の人人
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あつい四月の朝の山のなかを
まつ赤になつてせつせとあるきながら
僕は一生懸命に花をつけてゐる名も知らぬ木の花を
おまへの手がもちきれぬほどへし折つては
ふしぎに重たい黄金の旗を引きあげるやうに
ほのかな灌木のなかへおまへをさそひこみ
藤色と黒の衣裳がうすら赤い天城特有の
よい匂ひのする石楠花の花に引つかかつて
さわさわとかがやき日の色にあやめもわかず
朝の紅がおまへの美しい肉にしみ出るまで
どんなに元氣よく歩いたらう
あのおびただしい爽かな空色とうす黄の花が
まつ毛をいつぱいに照る天氣に魅入られ
おまへと僕をほんのりとすき透してしまつて
うす紫の影のある涼しい歡喜が
天然の色のまま名もない木木の花の房を
まるで生きた祭りの
鮮かな情慾のやうに染めたつけ
おまへはあをあをとした孔雀のやうに
僕をいつぱいに愛してゐてくれて
惜しげもなくそのふくよかな羽や瞳を
この山中の枝枝と日の影の方へちらばしてくれるし
僕はこの重たい春の日のつやつやした情熱を
濕りのあるふかい思想のやうにあたため
そのまま滿ちあふれるおまへの呼吸を
つよい肉情の楯のみで
どうして防いでゐられよう
僕はどうして山がこのやうに花と大氣を背負うて
うつとりとしてゐるかをうすうす感じながら
おまへがよりかかつた石楠花の木の花のやうに
全身にすつかり風と熱とをつけて
新らしいおまへを祭り得る力を得たこの腕を
どんなにか匂ひのよい谿の空中へとうちふつて
自分の狂氣をうたひ、無智や本能をうたひ
おまへに僕の精神のいつさいの機能を
何の苦もなく捧げてしまはうと努力したらう。
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