葉書

千家元麿

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今日はいゝ日だ。 朝、床の中でうと/\して居ると 郵便配達が どつしりと重みの有る一束の葉書と手紙を投げ込んで行く 音に目を覺された。 自分は其處に五六枚のハガキが重さなり合つてちらばり、 一通の手紙とを見た。 自分は檻の中の獅子が投げ込まれた肉片に飛び付くやうに 勢ひよく手を伸してそれを掻き集めて胸の下に引寄せた。 久しぶりでKから自筆のハガキがあつた。 國へ歸つたNの二度目のハガキがあつた。 それからKからの編輯についてのハガキと、 夫から來月號に小説を出す通知を兼ねた返事があつた。 それからNのハガキと今月の雜誌に出た三つの小説があつた。 それが手紙に見えたのだ。 自分は一枚々々餓ゑるやうに讀み噛みしめた。 すつかり血が殖えたやうに。 自分は元氣づいて手紙を懷にねぢこんで立上つた。 窓からは好きな青空が誘ふやうに光つてゐた。 小供をつれて原つぱへ行かうと思つた。 そこでNの小説を讀まうと思つた。 顏を洗ひ乍らも幾度も幾度も自分はハガキを懷から出して眺めた。 妻や小供にも少し關つてやらうと思ひ乍ら ハガキに氣をとられつゝ 自分はNの『哀れな少女』の初めの一頁を息を殺して讀んだ。 然うしてあとを樂しみにして 幾度も自分を待つて呼んでゐる食事にいそいだ。 ハガキと原稿は自分の懷と袂に本能的にしまはれた。 自分は元氣に 妻や子供に、原へ連れて行つてやると云つた。 (一〇、一四)

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