猿
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自分のあとになり、先きになり
女の猿廻しが二人連れ立つて夕暮の町を歩いて行く
男のやうに筒袖を着て、白い脚絆に鞋かけ、スタ/\と歩いてゆく、
脊中に脊負つた辨當箱の上に一匹猿が横向きに乘て居る。
薄桃色の顏と同じ色の可愛ゆい耳をもつた胸だけ白い灰色の奴だ。
不安さうに搖られ乍ら體を女の脊中に赤ん坊のやうに寄せ掛けて
時々キーキーと啼いてゐる。
側ではし切り無しに電車が通る
深山の奧から一匹
仲間に別れて來た小猿は
ひもじいのか恐いのか眠りもしないで
寒い空氣の中で恐さうに眼を光らして居る。
二人の女猿曳は話し乍ら實にスタ/\歩いてゆく
地の上はすつかり暗くなつて
坂の向ふには建て込んだ都會の家々の間から
赤い廣告燈の上に
大きな滿月が浮び上るのに
息をつく隙も無く二人はセツセツと歩いてゆく
あたりの騷ぎにはまるで頓着無く
月の下では町の生活の呼聲が寄せては返へす波のやうに
恐ろしく聞える。
人を攫つてゆく狂氣した波だ。
その中で人間がわめいてゐる
心細い漂泊の猿よ
御前は俺のあとになり、先きになる
俺の考へてゐる内に御前は先になつてしまひ
俺が急ぐとあとになる。
今夜はどこで御前は一人で眠るのだ
どこまで行つても御前はその女主からはのがれられはしない。
筒袖をブラ/\させて懷手をして行く仲間も
胸に太鼓をぶらさげて御前をおんぶしてゆく人も見たところ貧しい、
淋しい、いゝ人らしい
御前は一人島流しになつたやうに不運だが
三人一緒に世渡りして行くのだ。
皆んな哀れな此世の道連れだ。
心細い夕暮の悲しさに小猿はキイ/\啼き
女は二人で今日のまうけの事でも話し乍ら
然し少しも調子をその爲めに弛めないで
いそいでゆく、實にいそいでゆく。どこか場末の宿へ
(一九一七、一二、二八日)
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