暮春の賦
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冷たき土窟に釀されて、
若紫の色深く
泡さく酒の盃を、
わがくちびるに含ませよ、
暮れ行く春を顫きて、
細き腕の冷ゆる哉。
心周章つる佐保姫が、
旅の日急くか、この夕、
人は夕飯に耽る間を、
花そこここに散りこぼれ、
痛ましきかな、春の日の
快樂も土にかへりけり。
垂るる若葉の下がくれ、
亂れて細き燈火に、
瞳凝らして見入るれば、
蕚にぬれる蘂の粉が
花なき今も香を吹きて、
殘れる春を燒かんとす。
足にさはりて和らかき
名もなき草の花ふみて、
思ふは脆き人の春、
蹠粗き運命に、
戀の花びらしだかれて
しをれゆく日の無くてかは。
暗まだ薄き彼方より、
常若に笑む星の影、
智慧ある風にきらめきて、
夏來と知らす顏付よ。
今冷やかに見かへして、
しろき笑ひや浮べまし。
耳をすませば薄命の
長き恨か、暗の夜を
くだけて落つる芍藥や、
吾も沈めるこの夜半を、
花の小草のしたかげに
蟲とやならむ、香にゑひて。
かかる靜寂をことならば、
心ある子がものすさび、
顫なく絃にふれもせば、
弱き我身はくだけても、
琴ひく君が胸の上に、
涙のかぎりかけましを。
ああ、恨みある春の夜の
よはのあらしに熱情の
焔な消しそ、木がくれに
のがれて急ぐ佐保姫が
旅路を詛ふ蠱術の
息吹とはかん火ぞ、これは。
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