鶲の歌(『白羊宮』収録)

薄田泣菫

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うべこそ來しか、小林の 法子兒鶲、―― そのかみ、(邦は風流男の代にかもあらめ。) 豐明節會の忌ごろも、童男のひとり、 日蔭かづらや曳きかへる木のした路に、 葉染の姫に見ぞ婚ひて、生れにし汝、 黄櫨のうは葉はくれなゐに、 また、榛樹の虚の實は、根に落ち鳴りて、 常少女なる母宮の代としもなれば、 すずろありきや許されて、 さこそは獨り野木の枝に、 占問ひ顏にたたずみて、 初祖の人や待ちつらめ。 ひととせなりき、 春日の宮の使ひ姫、秋ふた毛して、 竹柏の木の間をゆきかへる小春日和を、 都ほとりの秋篠や、 *『香の清水』は水錆びてし古き御寺の 頽廢堂の奧ぶかに、 技藝天女の御像の天つ大御身、 玉としにほふおもざしに、 美し御國の常世邊ぞ あくがれ入りし歸るさを、 ふとこそ、荒れし夕庭の朽木の枝に、 汝が靜歌を聞きすまし、 心あがりのわが絃に、 然は緒合せにゆらぐ音の歌ぬしこそは、 うべ睦魂の友としも、 おもひそめしか。 また、ひと歳は神無月、 日ぞ忍び音に時雨れつる深草小野の 柿の上枝に熟みのこる美し木醂、 入日に濡れて面はゆに紅らむゆふべ、 すずろ歩きの行くすがら、 竹の葉山の雨滴りはらめく路に、 汝を、ひとり黄鶲の 默の俯居をかいまみて、 *ありし掛想のまれ人の 化か、雨じめる野にくゆる物のかをりに、 そのかみの夜や思ひいでて、 涙眼に鳥は嘆くやと、 目ぞ留りにし。 ああ汝こそ、小林の 法子兒鶲、――人の世の往くさ來るさに、 ともすれば、まためぐり會ふ魂あへる子や、―― 實にいささめの縁ながら、空華にはあらじ。 わが魂の小野にして、 『努力』の濕ひ、『思慧』の影おほし齋きて、 さて咲きぬべき珍の花、 そのうら若き莟みこそ、 さは龕の戸と噤みつれ、 まだき滴る言の葉の美しにほひは、 生命の火をも齋はふまで、 香にほのめきぬ。 *秋篠寺に香水堂あり常曉阿闍梨閼伽井の舊蹟なり *竹の葉山の下路は深草少將が通ひ路の舊蹟と傳へらる

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