金星草の歌(『泣菫詩抄』収録)

薄田泣菫

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そのかみ山の一の日に、草木はなべて、     ああ金星草、 色ゆるされの事榮に笑みさかゆるを、     ああひとつば、 ひとり空手に山姫の宣をこそ待て、     ああひとつば。 春は馬醉木に蝦夷菫かざしぬ、花を。     ああひとつば、 裝ひ似ざるうれたさに、宮にまゐりて、     ああひとつば、 願へど、姫は事なしび、素知らぬけはひ、     ああひとつば。 夏は山百合、難波薔薇香にほのめきぬ     ああひとつば、 匂ひ香なきにうらびれて、一日は洞に     ああひとつば、 歎けど、姫は空耳に片笑みてのみ、     ああひとつば。 秋は茴香、えび蔓實ぞ色づきつ、     ああひとつば、 素腹の性を恨みわび、夜を泣き濡れて、     ああひとつば、 萎ゆれど、姫は目も空に往き過ぎましぬ     ああひとつば。 やがて葉は散り、實は朽ちぬ。冬木の山に     ああひとつば、 獨りし居れば、姫は來て「思ひかあたる     ああひとつば、 世は吾とわが知るにこそ、在りがひはあれ     ああひとつば。 姫は微笑み、「今日もはた、香をか羨む、     ああひとつば、 色をか、いかに。齋ひ子の斯くや、御賜。」と     ああひとつば、 その日よりこそ、黄金斑の紋葉とはなれ、     ああひとつば。

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