古鏡賦
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斧にたふれし白檀の
高き香森に散る如く、
薄衣とけば遠き世の
ふかき韻ぞ身に逼る。
向へば花の羽衣の
袖のかをりを鼻に嗅ぎ、
叩けば玉の白金の
冠冕を彈く響あり。
あな古鏡、往にし世に、
額白かりし上﨟の
戀のうらみに世をすてし
今はのきはのかたみとや、
横さにかかる薄雲の
曇れる影も故づきて、
頼もしき哉、祭壇の
清き姿をうち湛ふ。
手なれし人も見ず久に、
冷えたる面にさはりみよ、
花くだけちる短夜を、
瞳子凝らしし少女子が
柔き額をながれけむ
熱き血汐の湧きかへり、
春の潮と見る迄に、
昔の夢の騷ぐらし。
亂心地の堪へざるに、
泡咲く酒の雫だに、
渇ける舌にふくませよ、
袖に抱きて人知れず、
深野の末に踏み入りて、
妻覓とも見む物狂、
背叩きて面撫でて、
わが友得ぬと歌はまし。
宿る人靈のひびらかば、
怨みある世の夢がたり、
今もむかしも嫉みある
女神、女子につれなくて、
人の情の薄かるに、
細き命をつなぎわび、
泣きて逝きけむ上﨟の
祕めし思を悼ままし。
ああ幾度か、若き身の
狂氣をこそは望みしか。
今ぞ興あり、怨みある
その世の記念、古鏡、
わがふところに藏め得ば、
京童は嘲るも、
世の煩らひを打ち捨てて、
もの狂はしき身とならむ。
なう古鏡、このあした、
汝を抱きて歎く身の
述懷は夢か、蜃氣樓、
それにも似つる幻か、
いずれ覺むべきものならば、
儘よ、短かき晝の間を、
飽かぬ睦びにあくがれて、
悲しき闇を忘れまし。
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