隱り沼

薄田泣菫

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初冬の日はたそがれぬ、 隱り沼や、山田の乳媼、 おもひでの吐息かすけき 面やつれ。 葉ずくなの並木の路に、 黄まだら足惱む牛は、 夕霧の鈍にかくれつ、 蹄おもに。 苅小田の目路や、さながら 齋ひ兒の葬式のゆふべ、 跡淨め、――柱隱れに、 居よるここち。 涙ぐむ小木の翡翠、 初立ちし巣や見忘れし、 ものうげに、つとこそ移れ、 あなたざまへ。 夕凝の岸のくづれに、 かさこそと、河原菅菜の これや、はた老いにし夏の 夢のひびき。 佛生會、生日の日なか、 花浮けし胸に、こよひは 野の――柳――姫が落髮、 葉ぞひたりつ。 寂寞や、『昨日』は逝きぬ、 『明日』はまた虚音に似たり。 失心なる『今』になづみて、 水かよどむ。 しだらなの眞菰のなかに、 水漬く火や、――今宵も星は、 秉燭の火影に、天の 戸こそまもれ。 水泥なす闇き胸にも、 常ひさの光の映や、―― たゆげなる笑青じろに、 沼ぞ皺む。

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