鳰の淨め(『白羊宮』収録)

薄田泣菫

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夏なかの榮えは過ぎぬ、 くたら野の隱れの古沼、 『靜寂』は翼を伸して はぐくみぬ、水のおもてを。 鳰や、實に淨めの童女、 尼うへの一座なるらし。 なづさひの羽きよらかに、 水泥なす水澁に浮きつ。 水漬く葉の眞菰のみだれ、 伏葦の臂のひかがみ、 末枯や、――さてしも齋塲、 おもむろに鳰は滑りぬ。 漁人の沓のおとにも、 鼻じろみ、面隱す兒の 振りかへり、かつ涙ぐみ、 水がくれにつとこそ沈め。 河骨の夏を夢みて、 ほくそ笑む水底の宮、 潜ぎ姫、『歸依』の掬むなる 常若の生命湛ひぬ。 見ず、暫時、――今はた浮きつ、 淨まはる聖ごころの かひがひし、あな鳰の鳥、 日ねもすに齋きゆくなり。

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