蠹
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初夏は酒甕の如、
泡だちて日は釀されぬ。
青みどり小野の木立は、
醉ひしれてまどろむここち。
うらわかき苑の無花果、
驕樂の時のすさびに、
かなしびは胸にはらみて、
無祥兒の蠹を産みぬ。
じじと日は油照りして、
沈殿むのみ。野は氣おされて
惱む間も、あなきしきしと
木食蟲 樹の髓を食む。
無花果の樹はかなしげに、
をとめさび、――思ひくづほれ、
葉廣なる掌面もたげ、
なに知らず 乞ひ祈むけはひ。
諾否の空照りおもり、
唖蝉は氣づかはしげに
立ちすくむ日を、きしきしと
木食蟲 樹の髓を食む。
無花果の樹はくるしげに、
木膚には 食まれの簸屑
膿沸きぬ。將たたゆたひぬ、
わび歌の音ぞ青じろに。
ふと人の足音とまり、
つぶやきて また往き過ぎぬ。
午さがり、――きしきしとのみ、
木食蟲 樹の髓を食む。
無花果の葉は泣きしをれ、
青からび實は萎え落ちぬ。
蔕あとに生命は白み
しとしとと雫ぞ釃む。
木はなべて夢ざめぬ。日は
夕なり。あな無花果は、
こしかたの世を痛ぶかに、
見入りては默しぬ。やがて――
ももとせを刹那に釀みて、
占飮に醉ふかのさまに、
聞き笑みぬ、夜をきしきしと
木食蟲 樹の髓食むを。
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