わがゆく海(『泣菫詩抄』収録)

薄田泣菫

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わがゆくかたは、月明りさし入るなべに、 さはら木は腕だるげに伏し沈み、 赤目柏はしのび音に葉ぞ泣きそぼち、 石楠花は息づく深山、――「寂靜」と、 「沈默」のあぐむ森ならじ。 わがゆくかたは、野胡桃の實は笑みこぼれ、 黄金なす柑子は枝にたわわなる 新墾小野のあらき畑、草くだものの 釀酒は小甕にかをる――「休息」と、 「うまし宴會」の場ならじ。 わがゆくかたは、末枯の葦の葉ごしに、 爛眼の入日の日ざしひたひたと 水錆の面にまたたくに見ぞ醉ひしれて、 姥鷺はさしぐむ水沼、――「歎かひ」と、 「追懷」のすむ郷ならじ。 わがゆくかたは、八百合の潮ざゐどよむ 遠つ海や、――ああ、朝發き、水脈曳の 神こそ立てれ、荒御魂、勇魚とる子が 日黒みの廣き肩して、いざ「慈悲」と、 「努力」の帆をと呼びたまふ。

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