過去の空間
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手ですくった砂が
痩せ細った指のすきまから洩れるように
時間がざらざらと私からこぼれる
残りすくない大事な時間が
そのかわり私の前にいくら君が立ちはだかっても
死の世界にしては明るすぎる向うの景色が丸見えだ
そのかわり君が敵か味方か私にはわからないが
なぜ君は君の見ている景色を私に見せまいとするのか
たしかに死の世界ではないのだ
しかしそこに人はひとりも存在しない
かつては客が大勢いたらしいのに今は去って
そのかわりたくさんの盃がにぎやかに残されている
飲み残しの酒を今なおたたえた盃
その周囲にからの盃が倒れている
杯盤狼藉のわびしい華やかさ
ころがっている盃のほうが多いのだ
私にははっきりわかるのだが
からの盃は盃が倒れたので酒がからになったのではない
人がぞんぶんに飲みほしたのち盃を投げたのだ
乾盃のあと床にたたきつけられた盃もある
なぜあと片づけをしないのだろう
宴のはじめはさぞかし楽しかったにちがいない
楽しさがまだ消えやらず揺曳しているのを
その場に残すためそのままにしてあるのか
その楽しさはすでに過去のものだ
しかし時間が人とともに消え去っても
過去が今なお空間として存在している
私という存在のほかに私の人生が存在するように
楽しそうでほんとは惨憺たる過去の景色を
君は私の味方として私に見せまいとするのか
それとも私の敵として過去の楽しさすら拒みたいのか
君は私の過去とは別に存在する私の作品なのか
景色は次第に夕闇に包まれて行く
砂上に書かれた文字が崩れるように
すべての盃も姿を消して行き
時間の洩れる音だけがいそがしく聞えてくる
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