耳のある自画像
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ピエールはピギャール広場で友人を刺した
近頃羽ぶりをきかせいばっていた友人を
二人はモンマルトルのやくざだった
ピエールは一躍男をあげた
同じときパリから離れた田舎のアルルで
ゴッホは自分の耳をかみそりで切りとった
友人のゴーギャンと口争いをして負けたのだ
ゴッホの傑作が一番生れたアルル時代のことだ
ピエールのようにゴーギャンを刺すことはできなかった
ピエールとちがって卑怯なめめしさだと笑われ
狂気のせいだとも診断されたが
ゴッホはやくざでなく画家だったのだ
のちにゴッホは片耳のない自分をみつめて自画像を描いた
卑怯な男ではなかった証拠だ
ゴッホの画は生涯に一度しか売れなかった
売れる画を描こうとしなかったのも卑怯でなかったせいだ
T君よ 君は好運だ
君の耳は健在だし
ノイローゼになってもゴッホのように死なないですんだし
小説を売って今日まで生きながらえることができた
さらに幸いなことに君はやくざのピエールでもなかった
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