髮
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シモオヌよ、そなたの髮の毛の森には
よほどの不思議が籠つてゐる。
そなたは乾草の匂がする。牛なぞの
ながく眠てゐた石の匂がする。
鞣皮の匂がするかと思へば、
麥を箕に煽りわける時の匂もする。
また森の匂もするやうだ。
朝配ばつて來る麺包の匂もする。
廢園の石垣にそつて亂れ咲く
草花の匂もする。
懸鉤子の匂もするやうだし、
雨に洗はれた蔦の匂もする。
日が暮れてから苅りとつた
羊齒の匂、藺の匂がする。
柊の匂、苔の匂、
垣根の下に實が割れた朽葉色の
萎れた雜草の匂がする。
蕁麻の匂、金雀花の匂がして、
和蘭陀げんげの匂もして、乳の匂がする。
黒穗草の匂、茴香の匂、
胡桃の匂がする、またよく熟れて
摘みとつた果物の匂がする。
柳や菩提樹が瓣の多い
花を咲かせるときの匂がする。
蜂蜜の匂もする。牧の草原に
さまよふ生物の匂がする。
土の匂、川の匂、
愛の匂、火の匂がする。
シモオヌよ、そなたの髮の毛の森には
よほどの不思議が籠つてゐる。
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