滊車に乘りて

上田敏

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赤松の林をあとに、 麻畠ひだりにみつゝ、 滊車はいま堤にかゝる。 ほのかなる水のにほひに、 河淀の近きは著るし。 三稜草生ふる河原に 葦切はけゝしと噪ぎ、 鵠こそ夏は來らね、 たまたまに百舌の速贄、 篦鷺の何をか思ふ しよんぼりと立てる畷に、 紡績の宿にやあらむ、 きり、はたり、はたり、ちやう、ちやう、 筬の音やゝにへだゝり、 道祖神祭るあたりの 鐵道の踏切近く、 繩帶の襤褸の衣、 勝色は飾磨の染の 乳呑子を負へる少女は、 淺茅生の末黒に立ちて 萬歳と囃し送りぬ。 萬歳はなれにこそあれ、 幾年を生きよ、里の子。 人の世に尊きものは 土の香ぞ、國の御魂ぞ。 僞の市に住へば 産土の神に離りて 養をかきたる人も、 埴安の郷の土より 生ぬきのなれに呼ばれて 本然の命にかへる。 道芝の上吹く風よ、 農人の寢覺に通ふ 微かなる土のおとづれ、 なつかしき母の聲音か。 晝さがり草の香高く 松脂のにほひもまじる 地の胸の乳房のかをり 蘇門答剌の香も及ばじ。 忽ちに鐵のにほひす。 鳴神の落ちかゝるごと、 滊車は今、橋に轟く。 桁搆眼路をかぎりて、 ひとり見る蛇籠の礫。

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