黄昏

上田敏

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夕暮がたの蕭やかさ、燈火無き室の蕭やかさ。 かはたれ刻は蕭やかに、物靜かなる死の如く、 朧々の物影のやをら浸み入り廣ごるに、 まづ天井の薄明、光は消えて日も暮れぬ。 物靜かなる死の如く、微笑作るかはたれに、 曇れる鏡よく見れば、別の手振うれたくも わが俤は蕭やかに辷り失せなむ氣色にて、 影薄れゆき、色蒼み、絶えなむとして消つべきか。 壁に掲けたる油畫に、あるは朧に色褪めし、 框をはめたる追憶の、そこはかとなく留まれる 人の記憶の圖の上に心の國の山水や、 筆にゑがける風景の黒き雪かと降り積る。 夕暮がたの蕭やかさ。あまりに物のねびたれば、 沈める音の絃の器に、桛をかけたる思にて、 無言を辿る戀なかの深き二人の眼差も、 花毛氈の唐草に絡みて縒るゝ夢心地。 いと徐ろに日の光隱ろひてゆく蕭やかさ。 文目もおぼろ、蕭やかに、噫、蕭やかに、つくねんと、 沈默の郷の偶座は一つの香にふた色の 匂交れる思にて、心は一つ、えこそ語らね。

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