耳と波上風景

山之口貘

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ぼくはしばしば 波上の風景をおもい出すのだ 東支那海のあの藍色 藍色を見おろして 巨大な首を据えていた断崖 断崖のむこうの 慶良間島 芝生に岩かげにちらほらの 浴衣や芭蕉布の遊女達 ある日は龍舌蘭や阿旦など それらの合間に とおい水平線 くり舟と 山原船の なつかしい海 沖縄人のおもい出さずにはいられない風景 ぼくは少年のころ 耳をわずらったのだが あのころは波上に通って 泳いだりもぐったりしたからなのだ いまでも風邪をひいたりすると わんわん鳴り出す おもい出の耳なのだ

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