疎開者

山之口貘

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往きも帰りもそれが顔にひっかかり 村の途は蜘蛛の巣がうるさいのだ そこで義兄が裏の竹藪から 若いのを一本切り出して来た 竹はまもなくすてっきに変った ぼくは竹のすてっきを振り廻しては 蜘蛛の巣をはらいのけ 振り廻してははらいのけて 未明の途を町の駅へと急ぐのだが 日暮れてはまたすてっきを 振り廻し振り廻し村に帰って来るのだ ある日ぼくは東京の勤務先に すてっきをおき忘れて帰って来た 女房から言われてふりむいて見ると 脱ぎ棄てたばかりの鉄兜に 煤色の蜘蛛がしがみついているのだ

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