座談
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1
ある晩
いいえ毎晩
その娘が
むかうにゐる男を好いてゐさうな目つきをするので
私はうすぼんやりしてゐるのです
2
むかうの男は俳優ださうです
こちらの私は詩人ださうです
どちらが娘を愛してゐるか
詩人の私であるといふより外はないのです
俳優は長居してゐるのでみつともないのです
考へてみると詩人も長居してゐるのです
どちらが娘を愛し得るかといふことになつたら
私は駈け出して
娘の首すぢを掴んでひつたくるつもりでゐるのです
3
娘は左の目蓋に小さなイボがある
お湯の歸りに ふとそのイボに指をふれてみたら血が出てゐたと娘は言ふ
それは戀の話である
戀の話はいろいろある
ああこの娘よ
もしも私の女房になるならば
奧さんではなくておかみさんになるんだらうが
それは女房になつてみれば直ぐにわかるのである
馴れてしまふのである
4
きのふの話によると
娘には許婚者があるんださうです
それが私でないところを見れば
あの俳優がさうなんだらうか
ぼんやりしてゐるうちに
私の顎下を
夜はなんどもなんども流れてゐたやうです
5
膝のうへには汚れた履歴書がある
邦子といふのがその娘である
邦子は喫茶店の女給だつたのである
その前の
光子は小學校の教師だつたのである
その前の
妙子も小學校の教師だつたのである
だつたのであるが
だつたことばかりが私の眼には浮んでゐる
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