常陸より

横瀬夜雨

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玉藻被ぎて美人の 狐と化ける篠原や 奈須野の南石裂けて 常陸に落つる小貝川 物皆沈む誰彼の 霞の底を流れては ほの/″\明くる東雲の 柳の蔭に渦きて 翠の山を山比女の 帶と𢌞れる川なれば 葦茅萠えて芹秀きて 川にも春の光あれ 朽木の洞に隱れたる 蝴蝶の夢は長うして 羽拔けかへし連雀 翔るも舞ふも雲の上 菜種の花に圍まれて 寂けき森の北南 村と村とは長橋の 橋を隔てゝ望めども 南の村にわれ生れ 北の村より君出でゝ 額に垂れし放髮の 髮の端にも觸れずして われまだ君の眉を見ず 見しは堤の花すゝき 君亦われの顏相らず 知るは堤の木瓜の花 あゝ幾年青き草濡れて 堤を花の飾るらむ 雨はしづかにそゝげども 人は歸らぬ故郷に 櫟の林分け入りて われ山繭を採りし時 萱野の末にうそぶきて 君はとがみを飛ばしけむ ぬすめる芋を野に燒いて 醶きに吻を腫らしては 七日の月の影踏んで 小篠の笛も鳴らしゝか おもかげに見る   あげまきの 友と呼ばんは   うらみなり 世にはぐれたる   一人子の 君は悲しき   弟よ さもあれ空の   雲すらも やがては洞に   歸るもの 歸れ月波の   ふところに 君ゆゑ泣かむ   人もあり はとがみ、草の名、形通草の實に似たり、みのりて莢裂くれば中におびたゞしき有毛痩果あり、試みに之を吹けば、風に乘り森を越え林を過りて、漂々として終にゆくところを知らず   ~~~~~~~

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