腐果

与謝野晶子

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白がちのコバルトの うす寒き師走の夜、 書斎の隅なる セエヴルの鉢より 幾つかのくわりんの果は身動げり。 あはれ百合よりも甘し、 鈴蘭よりも清し、 あはれ白き羽二重の如く軽し、 黄金の針の如く痛し、 熟したるくわりんの果のかをり。 くわりんの果に迫るは つれなき風、からき夜寒、 あざ笑ふ電灯のひかり、 いづこぞや、かの四月の太陽は、 かの七月の露は。 されど、今、くわりんの果には 苦痛と自負と入りまじり、 空しく腐らじとする その心の堪へ力は 黄なる蛋白石の肌を汗ばませぬ。 ああ、くわりんの果は 冬と風とにも亡されず、 心と、肉と、晶液と、 内なる尊き物皆を香として 永劫の間にたなびき行く。

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