南風

与謝野晶子

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四月の末に街行けば、 気ちがひじみた風が吹く。 砂と、汐気と、泥の香と、 温気を混ぜた南風。 細柄の日傘わが手から 気球のやうに逃げよとし、 髪や、袂や、裾まはり 羽ばたくやうに舞ひ揚る。 人も、車も、牛、馬も 同じ路踏む都とて、 電車、自転車、監獄車、 自動車づれの狼藉さ。 鼻息荒く吼えながら、 人を侮り、脅かし、 浮足立たせ、周章てさせ、 逃げ惑はせて、あはや今、 踏みにじらんと追ひ迫り、 さて、その刹那、冷かに、 からかふやうに、勝つたよに、 見返りもせず去つて行く。 そして神田の四つ辻に、 下駄を切らして俯向いた わたしの顔を憎らしく 覗いて遊ぶ南風。

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