肖像

与謝野晶子

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わが敬する画家よ、 願くは、我がために、 一枚の像を描きたまへ。 バツクには唯だ深夜の空、 無智と死と疑惑との色なる黒に、 深き悲痛の脂色を交ぜたまへ。 髪みだせる裸の女、 そは青ざめし肉塊とのみや見えん。 じつと身ゆるぎもせず坐りて、 尽きぬ涙を手に受けつつ傾く。 前なる目に見えぬ無底の淵を覗く姿勢。 目は疲れてあり、 泣く前に、余りに現実を見たるため。 口は堅く緊りぬ、 未だ一たびも言はず歌はざる其れの如く。 わが敬する画家よ、 若し此像の女に、 明日と云ふ日のありと知らば、 トワルの何れかに黄金の目の光る一羽の梟を添へ給へ。 されど、そは君が意に任せん、わが知らぬことなり。 さて画家よ、彩料には わが好むパステルを用ひたまへ、 剥落と褪色とは 恐らく此像の女の運命なるべければ。

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